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IHP

IHP / 鹿児島,日本

 

Photos by Informercial

 

アーケードに面する店舗+住戸。

アーケードを超えた高さまで店舗を拡張している。

 

    This mixed-use residential and commercial structure faces a coveredshopping arcade in Kagoshima, Japan. The commercial space extends above the arcade roofline with glass windows, allowing light in and views out.

 

    鹿児島市天文館のアーケードはこの地区全体に縦横に広がり、街路の幅や屋根の高さも十分に確保されていて、街の中心地らしいスケールを誇っている。しかし、他の大型商業施設や郊外型ショッピングモールの完成に押され、他地域の中心市街地同様、翳りが出てきている。

 

    IHPの敷地はそのアーケードエリアの周縁に位置し、敷地の南側がアーケードに面し、さらに北側にも4m幅の道路がある。アーケードの屋根は、建物の3層分の高さに架けられているので、両側の建物群はアーケード空間に対して3層の顔を持つことが出来るのだが、実際にはほとんどが1階か2階までしか店舗として利用しておらず、3階部分にはさびしい表情が続いている。空間としては伸び伸びとした明るいアーケードなのだが、商業的にその可能性が最大限に利用されているとはいえないのである。

 

    クライアントからの要望は、店舗面積として200坪必要なこと、そして残りの面積を賃貸の集合住宅としたいというものだった。店舗は新しい事業展開として自らのインテリアショップを始めるためのもの、集合住宅はビル収支を支える収入源という設定である。そしてその背後には、緩やかに衰退へと向かいつつある天文館に、古くからこの地で商売を続けてきた一族として、活力を与えたいという強い意志があった。

 

    アーケード空間は法令上あくまで道路扱いなので、この敷地には南側からも北側からも道路斜線がかかってくる。アーケードに面するファサードは、近隣との連続性や、最大の店舗面積を確保するためにもセットバックをしなかったため、建物は道路斜線を反映したままに、上に行くに従いボリュームが小さくなる三段積みの構成になっている。最下段は店舗、中段は集合住宅、最上段はメゾネット住戸の上層部分で、ここのみ鉄骨象である。

 

    最下段の店舗のスタディにおいて、当初はアーケードの屋根の下に当たる3層分で検討したが、要求された面積を確保できなかった。地下をつくる案も検討したものの、それよりもアーケードを超えた上の空間は店舗として成り立たないという思い込みを捨て、地上4層までを店舗とする案を選んだ。アーケード側に吹抜けと開放性の高い階段を設け、歩行者に対して4層部分の存在を可視化し、さらに4階にトップライトを設置して自然光を導き、3階以下と連続して見えるようにしたのである。アーケードの高さによって店舗空間が限定されるのではなく、工夫によってはアーケードの上へも拡張可能であり、それを実現することでアーケードと建物の可能性を広げようと考えた。

 

    5階以上の集合住宅の存在は、アーケード下からはわからない。住戸に入ってみると、その眼下にアーケードの屋根が縦横に連なる風景には、まるで第二の地盤か、凍った大波が繋がるような不思議さがある。また街の中心にありながら、南側には桜島、北側には城山の緑を見渡すことができる。住戸のデザインは、その不思議な風景を最大限楽しめるような広い開口部を与えるとともに、立地から鑑みてSOHOとしても使えるよう、ニュートラルで仕切りの無いオープンな空間とした。真っ白なバスルームも大きな窓を通して居室部分と繋がっていて、より開放的で広々とした印象である。三段積みのボリュームを活かし、テラスが広いのも特徴である。エントランスは北側の4m道路側に設けたため、アプローチはアーケードとは切り離されている。しかし、5階住戸のテラスのそばには4階のトップライトがあったり、夜間にはアーケードの屋根がぼんやりと光る様は近未来映画のようであったりと、やはり住宅部分とアーケード、下層に控える店舗空間の間にはこの計画ならではの関係が形成されている。

 

    オープンした店舗空間は、アーケード空間とまさに一体になっているように感じられる。陳列された商品がアーケード側にこぼれだすようでもあり、アーケード空間が店舗内に流れ入っているようでもある。また透過性の高い階段を人々が昇降する様子は、アーケードに対して生き生きとした動きを与えている。この計画が、ここで商売を営む人々に対して、ある一つの方法を提示し、小さな光を与えていることを期待している。

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